MAEDAトシロー

レッテルコンプレックス ㉕ 中学生編

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どうも、

 

昨日の続きです。

 

 

マラソンは体力勝負と考えられがちだが、意外と頭脳勝負である。

それほどマラソンは緻密に準備したやつが勝利を掴む。

 

 

 

1キロは過ぎただろうか。

 

後ろの後続者グループが遠くに感じた。

 

 

 

俺らのペースメーカーグループは、7人の固まりとなっていた。

 

 

ペースメーカーのいぶし銀山中、俺、敏腕ピッチャー、立木、その他に3年2年1年が1人ずつ。

 

 

中々予断を許さない状況。

 

 

ペースも次第に速くなるし、俺の呼吸も速い。

 

このグループについて行くのでやっとだ。

 

 

2キロを過ぎた辺りから俺らに動きが出始めた。

 

 

最初の難所、上りとなる坂を迎えたのだ。

 

ペースメーカーの集団が長い列に間延びし始める。

 

 

いぶし銀山中は以前トップで、次に敏腕ピッチャー、その他2年生、その他3年生、立木、俺、その他1年生のようになった。

 

 

 

(ここは我慢の時だ、次の下りに備えなければ)

 

 

 

しかし、田舎の上りの山道である。

 

急勾配に加え、石ころや脇道の雑草なども道路の方に横たわっている。

 

足元に注意を向けておかなければ足を挫きレースどころではない。

 

ペースメーカーのいぶし銀山中について行くのは至難の業だった。

 

 

 

徐々に距離が離れる。

 

 

 

山中や敏腕ピッチャーに追いつけない。

 

 

 

(くそーーー!!負けたくねーのにだけどペース上げるわけにもいかんし)

 

 

 

前方の立木とも少しずつ距離が離れる。

 

 

 

焦るな焦るな今は焦るな。

 

もうすぐ坂を登りきる。

 

勝負はそこからだ。

 

 

 

俺らの間延びした集団はやっと坂を登りきり今度は下り坂へと差し掛かった。残り3キロと少々。

 

 

 

(よっしゃーーー!ここからが俺の力を発揮する場よ)

 

 

俺はギアを上げた。

 

ここで前との距離を一気につめる。

 

 

 

しかし、俺のようにギアを上げたのは他の連中も一緒だった。

 

いぶし銀山中、敏腕ピッチャーはもの凄いスピードで坂を下り始める。

 

それに続くその他2年、その他3年も同じだ。

 

 

 

 

(くそーーーまじか。俺と同じ考えだったのか)

 

 

 

かろうじて立木だけは、上り坂で体力を使ったのかペースはそんなに速くない。

 

立木と俺の距離は徐々に近づいた。

 

 

学校や駅伝大会では友達、仲間として一緒に過ごしたがこのマラソン大会は負けられない。

 

俺は立木を抜いた。

 

 

 

そしてさらにギアを上げ下り坂を駆け下りる。

 

だが、前との距離は変わらない。

 

あっちもどんどんスピードが速くなる。

 

 

 

下り坂も終わりに近づいた。

 

この後は、短い上り下りを繰り返し、最後の1キロは少々急勾配の上り坂となっている。

 

 

 

(俺がんばれーーー!!!)

 

 

 

俺は無心で走り続けた。

 

 

そして、気がついたら残り500メートルで目の前にはゴールが見えた。

 

そこからは、次のマラソンに控える女子たちや先生達が道路に出て応援していた。

 

いぶし銀山中は、数分前にゴールしたのか道路に横たわっている。敏腕ピッチャー、その他2年もゴールしていた。

 

その他3年が前方200メートルの位置にいたが、俺にはこの距離を巻き返す余力が残っていない。

 

後続者は、振り向いていないが近くにはいなそうだ。

 

 

 

 

(ここまでか…)

 

 

 

 

俺は5位でゴールした。

 

 

続いて、数分後に立木が6位でゴールした。

 

 

 

俺はゴールした瞬間気持ち悪くなってその場で吐いた。

 

自分の限界を突破し、無理なペースで走ったせいだろう。

 

 

 

その後、続々と生徒達がゴールした。

 

そして、最後の生徒が先生に手を引かれながらゴールしマラソン大会男子の部は終わった。

 

 

数分後女子の部が始まり、俺は立木やりょう、岡本らと軽いストレッチをした。

 

 

マラソン大会や駅伝大会、駅伝の練習でもそうだが、俺は走り終わった後の仲間たちとのピロートークが好きだ。

 

他愛もない話でケッケッケッと笑い、その時俺はなんとも言えない満足感に浸る。

 

死力を尽くし出し切ったことに我ながら誇りに思う。

 

結果はどうでも良い。

 

ここまで出し切って出た答えが全てだ。

 

この清々しい気持ちが俺は好きだ。

 

 

 

 

俺や立木はりょうや岡本の順位をイジリ楽しく過ごした。

 

 

 

そうこうしているうちに女子の方もそろそろゴールする時間だ。

 

俺らは道路に出て先頭の女子を今か今かと待った。

 

 

 

俺らからしたら女子の順位なんてどうでも良い。

 

そんなことよりも気になっている子や3年2年1年生の必死に走る姿をこの目で拝みたい。

 

思春期の俺らからしたらそんな女子を好奇の目で見ずにおれない。

 

ウブな俺が女子をガン見できる唯一の場がマラソン大会であるからだ。

 

 

 

女子は続々とゴールしていった。

 

俺は俺で気になっている子や1年2年3年生を舐め回すかのごとく眺め応援した。

 

女子も全員ゴールした。

 

最後は、先生に手を引かれながら走るA子だった。

 

 

 

(キモッ)

 

 

 

俺はそう思い、立木、りょう、岡本らと表彰式に備えた。

 

 

 

女子の部が終わり、女子たちが十分に休憩した後表彰式が行われた。

 

 

 

表彰式は男子の部、女子の部分かれて上位10人ずつ全校生徒が学年順に並ばされ体操座りをしている中名前が呼ばれる。名前が呼ばれた者は大きな返事をして全校生徒がよく見渡せる前に順に並んでいく。その後1位から順に拡張器を回されマラソンの感想などを語る。こういった流れだ。

 

 

 

俺の気持ちは高揚していた。

 

走り終わった後は、清々しい気持ちで友達と過ごしたが、この時が近づくにつれて徐々に実感が湧いてきていた。

 

ここで目立てば一躍人気者。

 

そのことばかり俺は考えていた。

 

周りも俺が入賞していることは知っている。

 

俺のふざけを期待してくれている。

 

 

 

 

男子の上位者が順に呼ばれる。

 

俺の前の4位の生徒が名前を呼ばれた。

 

 

 

 

(おぉーー!!!次が俺の番だ)

 

 

 

少し動悸が激しいが、こんなのソフトや野球と比べたら大したことない。

 

 

俺の名前が呼ばれた。

 

 

 

「5位山下としろー君」

 

 

 

「ふぁい!!!!!」

 

 

 

手始めにちょっとふざけた。

 

声も張り上げたから遠くにいる生徒達までくすくすと笑っている。

 

 

 

 

(よし手応えあり)

 

 

 

俺は、前の方に小走りしながら走り並んでいる列に加わった。

 

次に立木が呼ばれた。

 

 

 

「6位立木こたろう君」

 

 

 

「ふぁい!!!!!!!!」

 

 

 

立木も俺のパクリをした。俺よりもどでかい声で返事をし周りを爆笑させた。俺がふざける空気感を作っていたので立木の返事は一層面白さが増していた。それも俺の返事とは違い立木の返事には立木らしい素の天然風が入っていて、俺の意識して笑わせようとする返事よりもぐっとくる面白さがあった。

 

 

 

 

(立木のやつ俺に便乗しやがって)

 

 

 

立木も俺の隣に並び、続く7位、8位、9位、10位と呼ばれ立木の横に並んでいった。

 

上位者10人が揃った後は、まず1位のいぶし銀山中に拡張器が回されマラソン大会の感想や今後の学校生活の抱負を述べさせられた。

 

 

 

順番にマイクは回されていたがみんな緊張して「とてもきつかったです」とか「学校生活でも頑張りたいです」とか「勉強もこのぐらい頑張りたいです」とか喋った。

 

 

 

それを聞いている生徒たちは徐々に退屈な顔になってきた。

 

でも仕方ないことである。

 

この者達は普段あまり人前に出たりふざけたりするようなキャラではない。

 

緊張して無難なことしか言えないのも無理はない。

 

 

 

 

 

(だが俺は違う)

 

 

 

 

俺がふざけたキャラというのは周知の事実だ。

 

ということは俺が上位10人に入賞した時点で笑いが起こることは確定済み。

 

後は、適当にふざけたことを言えば周知の事実と相まって勝手に笑いの渦が起こる。

 

さらに田舎学校のツボの浅さと言ったらそれはそれは浅い。

 

 

 

 

(これは貰ったぜ!!)

 

 

 

俺に順番が回ってきた。

 

手に汗が滲むが不思議と緊張はしていない。

 

 

 

 

「こんちはーーー!!!!!!」

 

 

拡張器を使ったどでかいこんちはが周りに響いた。

 

まあまあウケている。

 

 

 

「こんちはーーー!!!!!!」

 

 

 

俺はもう一度こんちはと言った。

 

歌手のライブで観客に催促を促すようなトーンで俺は言った。

 

ちょっとずつ笑いの空気が出来てきた。

 

何人かがこんちはと返している。

 

これでは足りない。

 

 

 

 

「こんちはーーー!!!!!!」

 

 

 

 

「こんちはー!」

 

 

 

よしよしいい感じだ。

 

最後のシメにもう一発。

 

 

 

「こんちはーーーーー!!!!!!!!!」

 

 

 

「こんちはーー!!!!」

 

 

 

 

(来た!)

 

 

 

「はい、山下としろーです。みんなの大好き山下としろーです。5位です。みなさん山下としろーは5位ですよー」

 

 

 

ツボの浅い田舎中学の生徒たちはくすくすと笑っている。

 

ここからとにかくふざけて笑わせようと俺は奮闘した。

 

 

 

「マラソン大会なんて楽勝ピーポーでした。あまりにも楽勝すぎて途中家に帰ったぐらいでしたー。まー5位ってのもわざと5位になったようなもので本当ならぶっちぎりの1位だったんだけど、俺は優しいのでそこは5位で我慢してやったのでしたー。てへぺろー。学校生活もマラソン大会みたいに楽勝ピーポーして頑張っていきやーす!」

 

 

 

みんな笑っている。

 

俺のマイクパフォーマンスは大成功だ。

 

よしこれで俺は晴れて人気者だ。

 

 

 

 

(よっしゃーーー!!!やってやったぜ!!!!)

 

 

 

 

俺は立木に拡張器を渡した。

 

 

 

俺は一仕事終えたようにフゥーっと肩の力を抜いた。

 

人気者をかけた大仕事だった。

 

思えばここまで長かった。

 

小学低学年から人気者に憧れ、ご飯の打診を断られそれでもしがみついて岡本というチャンスを掴んでやっと今がある。

 

良かった。

 

本当に良かった。

 

楽しい。

 

今が楽しい。

 

 

 

 

立木が喋りだした。

 

 

「あーえーた立木です。えーあーろ6位です。あーありがとうございます。えーっとめっちゃきつかったですけど、あーえー頑張りたいです」

 

 

 

 

立木は緊張していた。

 

あがり症というか人見知りするタイプの男でこんな大勢の前で喋ったのは初めてという感じがした。

 

こいつの癖に手で顔をかく習性があるのだが、例えるなら猿。

 

そんな猿真似のような仕草で立木はマラソンでの感想や学校で頑張りたいことを喋った。

 

全然面白いことを言っていない。むしろおじおじしていて気持ち悪い。

 

しかし、生徒、先生、マラソン大会上位入賞者までもその愛くるしい仕草と緊張して何を言っているか分からない話に耳を澄まし笑っていた。

 

周りが笑うとさらに顔をかき、訳の分からないことを言う、するとまた周りが笑うという感じだった。

 

 

 

 

俺には何故そんなにみんなが笑うのか分からなかった。

 

俺から見ればおじおじしてる気持ち悪い男子。

 

面白いこともふざけたこともしていない。

 

なのにみんな笑う。

 

そうか。

 

俺がその流れを作ったからだ。

 

それにみんな笑いのツボが浅い。

 

だから立木のよく分からん雰囲気に笑うのだ。

 

 

 

 

立木のヒーローインタビューが終わり、順に7位、8位、9位、10位と続いた。

 

 

みんな緊張していて無難なことを言っていた。

 

 

上位入賞者のヒーローインタビューが終わり、俺らは元の位置に戻った。

 

その後女子の上位入賞者のヒーローインタビューがあり、10人が全校生徒の前に立った。

 

俺は前に立った女子たちをまじまじと見て、時間は過ぎていった。

 

 

 

今年最後の学校行事も終わり、それから数日後俺らは冬休みに入ったのだった。

 

 

 

 

今回はここまで。

 

それでは。

 

 

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